劣化によるプラスチックの構造変化がわかります
プラスチックは、軽くて強く、電気的絶縁性や耐熱性にも優れている高分子材料です。加えて、熱を加えることで簡単に加工できることから、多くの分野で使用されています。しかし、プラスチックをはじめとした高分子材料は熱や紫外線などの外的要因により、劣化が生じてしまいます。劣化原因の一例としては、加水分解による分子量低下が知られています。 この加水分解による構造変化を把握できれば、劣化を防ぐ対策を打つことが可能となります。ここでは、低融点熱可塑性プラスチックや生分解性プラスチックとして使われるポリカプロラクトンをMALDI-TOF MSで分析した事例を紹介します。
ポリカプロラクトンの微細構造変化分析
主鎖にエステル結合を有し、加水分解を受けやすいポリマーの1つであるポリカプロラクトンの加水分解前後におけるGPC分子量分析を行いました。得られた分子量分布曲線より、加水分解後に低分子量化が起きていることがわかります〔図1〕。分子量の変化に伴う構造変化や分解生成物の有無を知るためには他の分析が必要であり、MALDI-TOF MSが有効です。
加水分解前後のポリカプロラクトンのMALDI-TOF MSを測定した結果、スペクトル〔図2〕より、加水分解前には認められない分子量[C+Na]+のピークが確認され、これは、カルボン酸末端を有する低分子量成分(C)であることがわかりました。この結果より、分子量の低下は、主鎖のエステル結合の解裂に伴う低分子量成分の生成が原因と推察されました。
このように、材料の劣化による結合の解裂パターンを把握することで、劣化による構造変化についての知見が得られる可能性があり、対策につながります。