放射光SAXSによる加熱in-situ測定
光学フィルム等の工業製品は加熱、冷却、延伸などの工程を経て製品化されます。従って、製品の性能発現が各工程のどこでどのように起こるか(メカニズム)を把握することで性能向上の指針が得られると考えられます。性能発現のメカニズムを把握するにはin-situ測定が適していますが、時間分解能や感度の不足からラボ装置では困難である場合が少なくありません。これに対し、放射光測定は時間分解能・感度共に極めて高いことから、in-situ測定を容易に行うことができます。
in-situ測定に適した手法の一つがSAXS(小角X線散乱)です。 X線を試料に照射すると試料の内部構造によりX線が散乱されます。散乱X線のうち散乱角が小さい(10°未満)領域に現れるシグナルを測定することで試料内部構造を非破壊分析する手法がSAXSです。
本資料では、光学フィルムについて放射光SAXSによる加熱in-situを行い加熱冷却に伴う試料内部の構造変化を分析した事例を紹介します。
加熱・冷却に伴う光学フィルムの内部構造変化
試料にはポリマーと添加剤からなる光学フィルムを用いました。このフィルムは海島構造を有し、島(ドメイン)の状態がフィルム性能に寄与することが明らかになっています。加熱in-situ SAXS測定はSPring-8のBL08B2に加熱冷却ステージをセットして行いました。同ステージをセットした様子を図1に示します。
加熱in-situ測定の温度プロファイルおよび得られた結果(抜粋)を図2に示します。加熱工程でドメインが大きくなりながら個数が減少し(相溶)、冷却工程でドメインが復活すること、さらに冷却により生成されたドメインは初期より大きいことがわかりました。このことから、この光学フィルムは加熱・冷却の両工程でドメインが変化しており、両工程を制御することで最終的なドメインの状態をコントロールできる可能性が示唆されました。
このように、放射光SAXSでは実際の工程に近い温度プロファイルでもin-situ測定が可能であり、かつ、得られるデータはSN比が高く、詳細な解析が可能です。ラボ装置ではこのような測定・解析はほぼ不可能であることから、放射光SAXSによる加熱in-situ測定は製品の機能発現メカニズムを把握する上で極めて有用な手法であると言えます。