深さ方向の元素比率、化学状態解析が低ダメージでできます
ESCA(XPS)を用いた有機材料の表面クリーニングおよび深さ方向分析は、従来のArイオンスパッタでは化学状態の変質が懸念され、変質の少ないC60イオンスパッタでは100nm程度の深さにとどまります。一方、Arガスクラスターイオンビーム(Ar-GCIB)のスパッタを用いると、有機物の変質が少ないだけでなく数10μmの深さまで元素比率や化学結合状態を調べることができます。ここでは、アクリル系粘着剤を深さ方向分析した事例を紹介します。
アクリル系粘着剤の深さ方向分析
市販のアクリル系粘着剤(粘着剤層約 30μm/紙基材)の深さ方向分析を行った結果を図1に示します。C1sスペクトルにおけるポリアクリル酸エステル構造由来のC-C,C-O,COOのピーク変化に着目すると、試料表面から深さ30μmスパッタ部までスペクトルに大きな変化がなく、Ar-GCIBスパッタは試料ダメージが小さい手法であることがわかります。このことは、深さ方向の元素比率を求めた図2や、ピーク分離を行い、C由来の各官能基の存在比率を求めた図3からも示唆されます。
以上のことから、本手法を用いることで、表面から30μm程度までの深さ方向分析が可能となり、最表面だけでなく貼り合わせ界面の元素比率や化学状態の把握ができるようになります。
その他の応用
- 多層材料の各層成分の偏析、移行評価
- 表面変質、改質層の評価