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固体高分子電解質膜中の水の挙動を観測することができます

燃料電池自動車(FCV)に実装されている固体高分子形燃料電池(PEFC)では、固体高分子電解質膜としてパーフルオロアルキルスルホン酸系固体電解質膜〔図1〕が一般的に用いられています。燃料電池中では含水することでイオン導伝性(水素イオンを輸送性能)が発現されるため、膜中の水の挙動を把握することは重要です。バルク水の脱離挙動およびSO3クラスター中の水の融解挙動について確認した事例を紹介します。

図1 パーフルオロアルキルスルホン酸系
    固体電解質膜の化学構造

固体高分子電解質膜中の水の離脱挙動とSO3クラスター中の水の融解挙動の評価

50℃から180℃まで、1℃/minの昇温条件で、図1に示す構造のフィルムの昇温FT-IRの測定を行いました〔図2〕 。
フィルム中のバルク水の脱離挙動は、バルク水由来のピークの変化やスルホン酸基由来のピークの変化より確認されることが報告されています*1。3400cm-1付近のバルク水由来のピークは、高温になるほど強度が減少しました〔図3〕。また、スルホニルアニオン(-SO3)由来のピークは高温になるほど強度が減少した一方、1400cm-1付近のスルホン酸基由来のピークは高温になるほど強度が増加しました。これらの挙動は報告された現象を再現しており、FT-IRでフィルム中のバルク水の脱離が確認されました。

図2 熱走査によるFT-IRスペクトル
図3 FT-IRスペクトルにおける各ピークの強度推移

次に、 SO3クラスター中の水の存在を確認するため、加湿保管した前後のフィルムに対し、-50℃から10℃の昇温条件でDSCの測定を行いました〔図4〕。加湿前は熱挙動は確認されませんでしたが、加湿後では0℃より低い温度域で水の融解と推察される吸熱ピークが確認されました。これは、クラスター中に水が保持されていることを示唆しています。さらに、融解ピークの面積・温度とクラスターサイズには相関があると報告*2されていることから、サンプル間によるクラスターサイズ比較も可能であると考えられました。

これらの分析より、バルク水及び SO3クラスター中の水の挙動を確認することができ、材料のキャラクタリゼーションの観点から燃料電池の機能性向上の開発を推進することが可能です。

図4 DSC測定結果

*1:下赤卓史、長谷川健. 「Nafion膜中に存在する束縛水の発見と水和構造の解明」.Jasco Report. 2015. Vol.57.No1
*2:高須芳雄、吉武優、石原達己. 燃料電池の解析手法. 化学同人. 2005.p155

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