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固体高分子電解質膜の劣化物を定量・定性することができます

燃料電池自動車(FCV)に実装されている固体高分子形燃料電池(PEFC)では、高分子電解質膜として図1に示すパーフルオロアルキルスルホン酸系ポリマーが広く用いられています。
燃料電池中において高分子電解質膜は、副生する過酸化水素と金属イオンとの反応から生成するラジカルで劣化するとされています。今回はラジカルが発生する系(フェントン試験:H2O2溶液+金属イオン)とラジカルが発生しない系(H2O+金属イオン)にパーフルオロアルキルスルホン酸系電解質膜を曝した際の溶出イオンの定量分析および劣化生成物の同定分析を行った事例について紹介します。

図1 パーフルオロアルキルスルホン酸系ポリマーの化学構造

劣化試験による分解物の分析(IC,LC/FT-MS)

図2 IC によるフッ化物イオンの定量結果の比較

図1に示す高分子電解質膜の劣化試験において、溶液中にトラップされたフッ化物イオンをイオンクロマトグラフ(IC)を用いて定量しました。図2に示すように、ラジカル発生系の液中からはフッ化物イオンが検出されましたが 、ラジカル非発生系の溶液中では定量下限値未満でした。この点は、パーフルオロアルキルスルホン酸系電解質膜の劣化にはラジカルが関与している報告*1を支持する結果が得られました。
このように、IC分析では電解質膜の劣化度合いを溶出イオンの量として把握することができます。

続けて上記試験後の溶液中の劣化生成物をLC/FT-MSを用いて調べました。既報*2では図4に示す化合物が分解物の一種として報告されています。そこで、C5HO6F8Sに由来する精密質量に着目したLC/FT-MS抽出イオンクロマトグラム(XIC)〔図3〕を確認した結果、ラジカル発生系のみからピークが認められ、このピークのマススペクトルの元素組成解析から、報告どおりの劣化生成物が推定されました。このように、 LC/FT-MSでは分解物や劣化物の化学構造を推察することができます。
分解された有機成分について把握することは電解質膜の劣化解明の一助となり、さらに燃料電池の寿命、環境への影響を評価するうえでも重要な項目です。

図3 フェントン試験液のXIC
図4 ピーク1のマススペクトルと推定構造

*1:高須芳雄、吉武優、石原達己. 燃料電池の解析手法. 化学同人. 2005.p155
*2:林栄治. 「固体高分子形燃料電池の劣化解析と評価法」. マテリアルライフ学会誌. 2007. 19[2]. p62~p66

関連した評価法

分析手法評価内容
溶液NMR
(1H, 13C, 19F)
劣化分解物の構造解析・定量
MALDI-TOF/MS劣化分解物の構造解析
ICP溶出した金属イオンの定量

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